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東京地方裁判所 平成10年(ワ)29316号 判決

原告 森景秀夫

右訴訟代理人弁護士 金城勇二

被告 佐々木和子

右訴訟代理人弁護士 高中正彦

同 松島幸一

同 中村博明

主文

一  被告は、原告に対し、四一五八万四三三六円とこれに対する平成一〇年一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、五五七二万三〇二九円及びこれに対する平成一〇年一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被相続人である父親が相続財産の大部分を子供の一人である被告に相続させる旨の遺言を残したことに対して、他の子供である原告から遺留分減殺を請求した事件である。

二  前提となる事実

1  原告と被告の父親である森景剛(以下「剛」という。)は、平成九年一月一五日に死亡した(争いがない。)。

2  剛の相続人は、いずれも子供である村松文夫(昭和一九年二月一八日生)、森景春美(昭和二四年一月一〇日生)、原告(昭和二五年一一月二二日生)及び被告(昭和二八年八月一二日生)の四名である(争いがない。)。

3  剛の遺産は、左記のとおりであった(争いがない。)。

(一) 現金 五億五〇〇三万一二三九円

(二) 預貯金 一三三〇万七九四四円

(三) 貸付信託 三一九一万四五四一円

(四) 有限会社メトロ(以下「メトロ」という。)への貸付債権 二七八〇万円

(五) 家財道具 相続開始時の価額 五〇万円

(六) 未収賃料債権、電話加入権 相続開始時の価額 四二万八〇〇〇円

(七) 東京都練馬区石神井台一丁目一九四四番地二所在

家屋番号 一九四四番二の三

軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺 作業所・事務所一棟

床面積 一階 一〇二・六九平方メートル

二階 一〇二・六九平方メートル(以下「本件建物」という。)

相続開始時の価額 一三八万九九九〇円

(八) 東京都練馬区石神井町四丁目一五〇四番五

宅地 三六七・二九平方メートル(以下「本件土地(一)」という。)

(九) 東京都練馬区石神井台一丁目一九四四番二

宅地 五九五・一〇平方メートル(以下「本件土地(二)」という。)

(一〇) 東京都板橋区成増一丁目三三四番六

宅地 六六・二四平方メートル(以下「本件土地(三)」という。)

(一一) 債務

(1)  剛の平成八年度の所得税、住民税、固定資産税 二五七万六九八〇円

(2)  数野信男に対する損害賠償債務 一四二八万八〇〇〇円

(3)  預り金債務 七一万九二五〇円

(4)  葬儀費用 三二万六七七八円

右債務合計一七九一万一〇〇八円

4  剛は、生前、次のとおりの遺言をしていた(乙二の1、2)。

(一) 剛の遺産は、村松文夫、森景春美及び原告の三名には遺留分の限度内でのみ相続させる。その遺留分も不動産の分割を避けるため金銭をもってのみ相続させる。

(二) 被告に対しては、前項の三名の遺留分を除くその他の全遺産を相続させる。

(三) 原告に対し、本件土地(三)を相続させる。

5  原告は、被告に対し、平成九年九月二一日に被告に到達した内容証明郵便で遺留分減殺請求の意思表示をした(争いがない。)。

6  剛は、生前、原告に対し、原告自宅の建築資金として一二〇〇万七四三九円を贈与し、自動車一台(代金二二五万円)を買い与えた(争いがない。)。剛が右自動車を買い与えたのは、昭和六三年四月一〇日であった (乙二の2)。

7  原告が遺留分どおりに剛の相続財産の八分の一を相続するとすると、原告が負担すべき相続税は三〇一〇万二二〇〇円である(争いがない。)。

三  争点

本件の争点は、原告の遺留分額はいくらであり、最終的に被告に対していくら請求することができるかであるが、具体的な争点は次のとおりである。

1  本件土地(一)ないし(三)の相続開始時の価額はいくらか(争点1)。

2  原告の特別受益額はいくらか(争点2)。

3  被告の立替分はいくらか(争点3)。

第三判断

一  剛が遺した相続財産については当事者間に争いがなく、したがって、剛の遺言により原告が取得した財産の中には、現金、不動産、預貯金債権、家財道具などがあるところ、原告は、遺留分減殺請求をしたとして、被告に対して、遺留分相当額の金銭の支払を求めているが、このような原告の請求の仕方については問題がなくはない。遺言によって取得された財産が複数ある場合に、遺留分権利者がそのうちの特定の財産を選択して減殺請求をすることができるかという法律上の問題があるからである。

しかしながら、前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、本件においては、現金が相続財産の最も大きな部分を占める上、不動産の分割を嫌った被相続人剛が遺留分権利者となるべき者には金銭のみを相続させる旨の遺言を遺しており、遺留分権利者である原告も金銭の支払を求めて本訴を提起し、剛の遺言によって相続財産の大部分を取得した被告も金銭の支払による解決を望んでいることが認められる。このような事情のある本件にあっては、原告が、減殺請求の対象を現金に限定し、遺留分相当額の支払を被告に求めることは許されるものと解するのが相当である。

そこで、以下本件の争点について判断することとする。

二  争点1について

1  本件土地(一)ないし(三)を除く相続財産の評価額については、当事者間に争いがない。

そこで、右の各土地の相続開始時の価額についてみると、鑑定人小岩井永雄の鑑定の結果によれば、相続開始時の、本件土地(一)の更地価格は一億四七六五万円、本件土地(二)の更地価格は二億一九〇〇万円、本件土地(三)の更地価格は三〇七四万円であったことが認められる。

2  ところで、証拠(乙六の1、一二、鑑定人小岩井永男の鑑定)及び弁論の全趣旨によると、本件土地(一)の上には、被告が経営しているメトロが平成五年一月に建築した鉄骨造陸屋根三階建のマンションがあること、本件土地(二)については、そのほぼ半分に新井正二(以下「新井」という。)所有の鉄骨造二階建の建物(以下「新井建物」という。)が、残りの半分に本件建物が建っており、新井が新井建物を、三瀬広(以下「三瀬」という。)が本件建物をそれぞれ使用していたこと、本件土地(三)の上には原告の自宅が建っていること、以上の事実が認められる。

そして、本件土地(一)については、賃貸借契約があったとの主張・立証はないから、使用貸借契約によって、メトロが右土地を使用していたものと推認されるところ、メトロが被告の経営する会社であることなどを併せ考えると、本件土地(一)については、更地価格の八五パーセントをもって、相続開始時の価額と認めるのが相当である。

3  次に、本件土地(二)のうち、新井の建物が建っている部分について検討すると、新井の土地占有権原がいかなるものであったかについては、証拠上やや判然としないところがある。しかし、甲第八号証によると、剛は、本件土地(二)を昭和三二年八月に取得したことが認められ、また、甲第一〇号証によると、本件土地(二)の上にある本件建物は、昭和五六年一二月に吉備商事株式会社(以下「吉備商事」という。)が建築し、昭和五七年二月に剛が吉備商事から買い受けたことが認められるところ、乙第一四号証によると、吉備商事と新井は、昭和五六年九月二五日、剛に対して、本件土地(二)について、剛が即決和解の申立てをした場合には無条件でこれに応ずる、その即決和解は、賃借権その他の占有権のないことを確認し、明渡期限を昭和五八年一〇月末日として、この間土地の使用損害金としてそれぞれ月額一八万円とすることなどを内容とする旨の念書を差し入れていたことが認められる。

これらの事実を総合して勘案すると、剛は、昭和五六年九月ころ、対価を得て本件土地(二)を吉備商事と新井に半分ずつ使用させることにしたが、これによって借地法に基づく賃借権を取得されるのを避けるため、吉備商事と新井に建物を建てさせた上、明渡猶予の形の即決和解をし、使用料相当損害金の支払名目で収入を得ることを図ったものの、その後本件建物については吉備商事から買い受けて、これを吉備商事に貸し付け、新井建物については、その敷地の占有に関して即決和解を繰り返していたものと推認される。

右によれば、新井は、対価を支払って本件土地(二)の半分を使用していたものであるから、本件土地(二)についての新井の占有権原は、実体としては、建物所有を目的とした賃借権であったとみる余地があり、新井が賃借権を主張したら、新井に対して、土地の明渡しを求めることは必ずしも容易ではなかったものと思われる。他方、弁論の全趣旨によれば、新井は、その後病気になってしまい、新井建物でしていた仕事をすることができなくなり、使用料相当損害金名目の金員の支払もできなくなったため、平成一二年三月限りで新井建物の敷地部分の土地を被告に明け渡したことが認められる。このような事情を彼此勘案すると、本件土地(二)の半分(新井建物の敷地分)については、建物所有を目的とした賃借権があったとまでは言いきれないものの、少なくとも一時使用目的の賃借権はあったものと解されるから、相続開始時の価額は、更地価格の六〇パーセントとみるのが相当である。

4  本件土地(二)のうち本件建物の敷地部分の土地について検討すると、乙第一二号証、第一八、第一九号証、第二〇号証の1、2、第二一号証によると、剛は、本件建物を三瀬に使用させ、三瀬は、ここでバレー教室を開いていること、剛は、本件建物についても、三瀬との間に賃貸借契約がないように装い、明渡猶予を求める念書を三瀬に提出させていること、剛は、三瀬から使用損害金名目で月額四〇万円を取得していたことが認められ、右認定によると、三瀬の本件建物についての占有権原は、実質的には賃借権であると認められる。

右のような借家権が付いた建物の敷地となっていることを勘案すると、本件土地(二)のうち本件建物敷地部分の価額は、更地価額の八五パーセントと認めるのが相当である。

5  本件土地(三)については、前記のとおり原告の自宅建物が建っており、原告の土地使用関係は、剛があらかじめ本件土地(三)を原告に相続させることを前提に、原告に建物建築を認めたものと推認されるから、いわば相続の先取りであり、使用借権付の土地と評価するのは相当でなく、更地画格をもって相続開始時の価額とみるのが相当である。

6  以上によれば、相続開始時の価額は、本件土地(一)が一億二五五〇万二五〇〇円、本件土地(二)が一億五八七七万五〇〇〇円(二億一九〇〇万円の二分の一の六〇パーセントと二億一九〇〇万円の二分の一の八五パーセントとの合計)、本件土地(三)が三〇七四万円となる。

三  争点2について

1  原告が自宅の建築資金として剛から一二〇〇万七四三九円の贈与を受け、これが特別受益に当たることは原告も認めている。

2  また、前記前提となる事実によると、剛は、昭和六三年四月一〇日、原告に自動車一台(代金二二五万円)を買い与えているが、右は、当時原告が三七歳であったことやその代金額などからすると、生計の資本としての贈与に当たるものというべきである。

3  被告は、剛が本件土地(三)を原告に無償で使用させ、この間原告は四三二万円の地代相当額の利益を受けたからこれを特別受益とすべきであると主張するが、これは生計の資本のための贈与には当たらず、被告の主張は失当である。

四  前記前提となる事実に、前記二、三で判断したことを総合すると、特別受益による持ち戻し分を含めた剛の相続財産の合計額は、九億三六七三万五六四五円となる。

したがって、原告の遺留分は、一応その八分の一である一億一七〇九万一九五五円となることになるが、ここから原告が相続した本件土地(三)の価額三〇七四万円と原告の特別受益分一四二五万七四三九円を控除した七二〇九万四五一六円が原告の具体的遺留分額となる。

五  そこで、次に、立替金による被告の相殺の主張について判断する。

1  弁論の全趣旨によれば、本件の相続に関する相続税の申告は被告がしているところ、遺留分減殺請求の結果、原告が相続財産の八分の一を相続するとすると、原告が負担すべき相続税額が三〇一〇万二二〇〇円になることは当事者間に争いがない。

2  乙第三号証の1によれば、被告は、本件の相続税の申告に関し、公認会計士に申告書の作成及び申告手続を依頼し、その費用として二五〇万円を支払ったことが認められ、また、乙第三号証の2、3によれば、被告は、本件土地(三)について原告への所有権移転登記手続をするための費用として九万五四八〇円を支払ったことが認められる。

被告は、公認会計士に支払った費用の四分の一は、原告が負担すべきものであると主張するが、実際に原告が相続するのは八分の一であるから、相続税の申告に関する費用も八分の一を負担すれば足りるものと解され、二五〇万円の八分の一である三一万二五〇〇円をもって原告の負担分と認めるのが相当である。

3  以上によれば、原告は、被告に対し、相続税の原告負担分、相続税申告費用、本件土地(三)の登記手続費用として、合計三〇五一万〇一八〇円を支払うべきである。

六  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、原告の具体的遺留分額七二〇九万四五一六円から相殺分合計三〇五一万〇一八〇円を控除した四一五八万四三三六円とこれに対する請求の後である平成一〇年一月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋弘)

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